今回の結果が示す影響
第1回では、PISA2025における日本の順位と、ここ10年の推移を確認した。今回は、その結果の中身が具体的に何を意味しているのかを掘り下げていきたい。「OECD加盟国中で3分野すべて1位」という見出しの裏には、いくつかの重要な内訳が隠れている。
読解力低下の中身――「量」ではなく「質」の問題
今回最も注目されたのが、読解力の得点が前回2022年の516点から503点へと13点低下した点だ。これは統計的にも有意な変化とされている。ただし、この低下を「読解力全体が一様に落ちた」と捉えるのは正確ではない。
設問のタイプ別に見ると、次のような違いがある。
- 「読みの流ちょう性(速く正確に読む)」を測る設問:正答率が前回より低下
- 文章の内容を「評価し、熟考する」設問:正答率はむしろ上昇
- 比較的長い課題文や複数の課題文を扱う設問、情報を「探し出す」「理解する」設問:前回とほぼ同水準を維持
つまり今回の読解力低下は、「文章を深く読み解く力」が落ちたのではなく、「限られた時間の中で文章を速く正確に処理する力」に的を絞って表れている。これは、これまでのPISAでしばしば語られてきた読解力低下(情報を探し出す力や理解力の低下)とは、性質が異なる現象だと言える。原因については、日々の読書習慣や、紙とデジタル画面での読み方の違いなど、学校の授業だけでは説明しきれない要因との関連も指摘されており、今後の詳しい分析が待たれる。
「上位層は堅調、下位層が拡大」という構造
今回の結果でもう一つ重要なのが、成績層ごとの変化だ。科学・読解・数学の3分野すべてで、基礎的な習熟度に届いていない低得点層の割合が有意に増加した一方、上位の高得点層の割合には目立った変化が見られなかった。
これは、学力の「天井」を支える生徒たちは今回も高い水準を維持した一方、学力の「底」を支える生徒たちの一部に弱さが広がっている、ということを意味する。日本はこれまで、家庭の社会経済的な背景による学力差が国際的に見て比較的小さいことを強みとしてきたが、今回の結果は、その強みの土台がやや緩み始めている可能性を示している。平均点だけを見ていると気づきにくい、内側で進行している変化だと言える。
新分野「デジタル世界での学習」でも存在感
今回のPISA2025では、新しい革新分野「ラーニング・イン・デジタルワールド(LDW)」が初めて実施された。ICTを活用しながら自律的に学び、問題を解決し、新しい知識を身につける力を測るもので、今回公表されたのはそのうち「コンピュテーショナルな問題解決能力」の部分にあたる。日本はここでもOECD加盟国中1位、全参加国・地域中では4位となった。なお、「自己調整学習」を含むLDW全体の結果は2027年に公表される予定だという。
これまでGIGAスクール構想によって進められてきた1人1台端末の整備が、単なる機器の配布にとどまらず、実際に生徒の問題解決能力として結果に表れ始めていることを示す数字と言える。
科学は「知識」から「使う力」へ、評価の物差しが変化
もう一つの変化として、今回のPISAの中心分野だった科学分野は、名称が従来の「科学的リテラシー」から「科学コンピテンシー」に改められた。単なる知識・理解にとどまらず、現象を科学的に説明する力、データや証拠を批判的に読み解く力、科学的な情報をもとに意思決定や行動につなげる力などを測る内容に重点が移っている。気候変動や持続可能性に関する環境リテラシーもこの中に含まれており、日本はこれらの関連する尺度でもOECD加盟国中1位という結果だった。
これは、「知っているかどうか」だけでなく「その知識を使って現実の問題にどう向き合うか」という力が、国際的な学力評価の物差しとして重視され始めていることの表れでもある。
国際的な文脈の中での日本の立ち位置
日本の結果を、世界的な流れの中に置いてみることも重要だ。OECD平均は2015年以降、緩やかな低下傾向が続いている一方、日本はこれまでおおむね横ばいを維持してきた。今回、日本の読解力が下がったとはいえ、それでもOECD平均を上回り、加盟国中では1位を維持している。
つまり今回の結果は、「日本だけが特別に落ち込んだ」わけではなく、多くの国で見られる緩やかな学力低下の流れの中に、これまで踏みとどまってきた日本もやや巻き込まれ始めた、という見方ができる。パンデミック以降の学習環境の変化や、スマートフォン・SNSの普及によるメディア環境の変化など、各国に共通する要因が背景にある可能性もある。
政策への影響
こうした結果を受け、文部科学省・松本洋平文部科学大臣は2026年9月11日の記者会見で、3分野制覇への謝意を示す一方、「読解力の平均得点の低下、低得点層の割合の増加といった点も明らかになった」と課題を明確に認め、今後さらに精緻な分析を進める考えを示した。ちょうどこの時期、次期学習指導要領の改定議論も大詰めを迎えており、今回の結果が今後の教育政策の議論に材料として使われていくことは間違いなさそうだ。
まとめ
今回のPISA2025は、「OECD加盟国中で史上初の3分野制覇」という明るい見出しの裏に、①読解力の質的な低下(流ちょう性の低下)、②低得点層の広がり、③デジタル活用能力での存在感、④科学分野の評価軸の変化、という4つの内訳を含んでいた。単純な順位の上下だけでなく、こうした内訳にこそ、今の日本の学力の実像が表れている。
次回は視点を広げ、日本にまだ足りないものと、かつて教育の理想として注目された北欧諸国がなぜ順位を下げ続けているのかを見ていきたい。
*出典:文部科学省・国立教育政策研究所「OECD生徒の学習到達度調査(PISA2025)」公表資料(2026年9月8日)、松本洋平文部科学大臣記者会見録(令和8年9月11日)、教育新聞「読解力などが課題のPISA『精緻に分析』と文科相」、OECD「PISA 2025 Results」