- 新しい勉強は、なぜあんなにつらいのか
新しい勉強は、なぜあんなにつらいのか ―― 毎日やったほうがいい理由
あの、頭が動かなくなる感じ
新しい単元に入った日のことを、思い出してみてください。
先生の説明を聞いても、何の話かピンとこない。教科書を読んでも、字が目の上をすべっていく。例題を一問解いただけで、もうへとへと。時計を見たら、まだ20分しか経っていない。
つらいですよね。
そして、こう思うわけです。「自分は頭が悪いのかもしれない」と。
でも、ちょっと待ってください。同じ単元を、1か月後のあなたはどう感じているでしょうか。たぶん、けっこう平気で解いています。同じ問題なのに、あのときの「頭が動かない」感じは消えている。
何が変わったのでしょう。あなたの頭が急に良くなったわけではありません。
じつは、これとまったく同じことを、あなたはもう一度、人生で経験しています。
赤ちゃんは、歩くだけで全力だった
いま、あなたが教室から昇降口まで歩くとき、どれくらい体力を使っているでしょうか。
たぶん、ほとんどゼロです。友だちとしゃべりながら、スマホを見ながら歩ける。「右足を出して、重心を移して」なんて考えていません。
でも、赤ちゃんのころのあなたは違いました。何度も転んで、手をついて、また立ち上がって。ふらふらと数歩進んだだけで、へなへなと座り込む。歩くだけで、体力を使い果たしていたのです。
何が変わったか。足の筋肉が強くなったから? それもあります。でも、もっと大きいのは、歩き方がしみこんで、意識しなくてもできるようになったことです。
考えなくていいから、力まない。力まないから、疲れない。だから、いくらでも歩ける。
新しい勉強がつらいのは、これと同じです。あなたはいま、その分野の赤ちゃんなのです。一歩ごとにふらついて当たり前。転んで当たり前。
テトリスの実験
「でも、それは体の話でしょう」と思うかもしれません。頭も同じなのでしょうか。
これを確かめた面白い実験があります。
1990年代のはじめ、リチャード・ハイアーという研究者が、テトリスというゲームで実験をしました。被験者に練習させて、その前後で脳を調べたのです。
すると、上達するにつれて、脳が消費するエネルギーが減っていきました。
もう一度言います。うまくなった人の脳は、より少ないエネルギーで同じゲームをこなしていた。必死に処理しているのではなく、ラクに処理していたのです。
ハイアーはこう説明します。脳は、どの部分を使えばいいのかを学習していく。そしてマスターするにつれ、無意識にプレイできるようになるのだと。
その後の研究でも、3か月練習したあとの脳では、ある部分の活動が下がっていました。つまり、繰り返し練習すると、脳の力をあまり使わなくてもその作業ができるようになるのです。
歩くのと、まったく同じでした。
「勉強の体力」の正体
これで、あの「へとへと」の正体がわかります。
九九があやふやな人が文章題を解くと、計算のたびに立ち止まります。「7×8は……7が8個だから……」。赤ちゃんが一歩ごとにふらつくのと同じです。そして計算が終わったころには、もとの問題が何だったか忘れている。
九九がしみこんでいる人は、「7×8は56」で終わりです。考えていません。歩きながらしゃべれるのと同じで、計算しながら「この問題は何を聞いているんだろう」と考え続けられます。
同じ問題を解いても、前者はヘトヘト、後者はまだ余裕がある。
これが「勉強の体力の差」です。頭の出来の差ではありません。しみこんでいるか、いないかの差です。
なぜ「毎日」なのか
では、日曜日に3時間まとめてやれば、しみこむでしょうか。
考えてみてください。週に一度だけ3時間歩いた赤ちゃんは、歩けるようになるでしょうか。
たぶん、なりません。歩けるようになった子は、毎日、何度も、少しずつ転びながら練習しています。しみこむとは、そういう種類の変化なのです。
勉強でも同じことがわかっています。同じ3時間でも、まとめてより、分けて何日もやるほうが記憶に強く残る。これを「分散学習」と呼びます。
コツは、ちょっと意外です。いちばん効くのは、忘れかけた頃にやること。スラスラ思い出せるうちの復習は、脳にとってラクすぎて効果が薄い。逆に、少し忘れて、思い出すのに苦労するくらいのときに引っぱり出すと、記憶の道筋が太くなります。研究者はこれを「望ましい困難」と呼びます。困難だけど、望ましい。
毎日やるということは、この「ちょっと忘れる → 思い出す」を毎日くり返すということです。一夜漬けには、これがありません。だからテストが終わると、きれいに消えるのです。
まとめ ―― つらいのは、まだ赤ちゃんだから
整理します。
- 新しい勉強がつらいのは当たり前。あなたはその分野の赤ちゃんだから
- 赤ちゃんは歩くだけで全力。でも今のあなたは無意識で歩ける
- 脳でも同じ。練習すると、より少ないエネルギーで同じことができるようになる
- だから、しみこんだ人ほど疲れにくく、長く続けられる
- そして「しみこむ」は、まとめてではなく毎日くり返すことでしか起きない
計算ドリルを毎日やるのは退屈です。何の意味があるのかと思うかもしれません。
でもあれは、計算を「歩けるようにする」練習です。
いま必死でやっている計算を、半年後のあなたは何も考えずにこなしています。そして浮いた力を、もっと難しくて、もっと面白い問題に使えるようになっている。
毎日やるのは、頑張るためではありません。将来、頑張らなくてすむようにするためです。
赤ちゃんのころ、あなたはもうそれをやり遂げています。だから今日、歩いてここまで来られたのです。
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- 同じ問題で「やりなおす」と、前のタイムより早くなったか確認できます。
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けたの組み合わせ