2026年のサッカー・ワールドカップ(W杯)は、史上最大の48チームが参加します。全部で何試合になるのかを求めるだけなら中学数学で足りますが、高校数学の道具を使うと、大会の構造そのものを一般化し、確率や期待値まで踏みこんで分析できます。組合せ、数列、確率を武器に、W杯を「解剖」してみましょう。

1.大会のしくみ

W杯は2段構成です。前半のグループステージでは、48チームを4チームずつ12グループに分け、各グループで総当たり戦を行います。勝ち上がった32チームが後半の決勝トーナメント(勝ちぬき戦)に進み、勝ち残った1チームが優勝します。以下、この構造を数学的にとらえていきます。

2.グループステージの試合数(組合せ nC2)

1グループは4チームの総当たり。これは4チームから2チームを選ぶ組合せ、すなわち二項係数で表せます。

₄C₂ = 4! / (2! × 2!) = 6試合

一般に、nチームの総当たり戦の試合数は、

ₙC₂ = n(n − 1) / 2

グループは12組あるので、グループステージ全体は 6 × 12 = 72試合です。

3.決勝トーナメントの試合数(等比数列と総和)

32チームの勝ちぬき戦では、各ラウンドの試合数が 16, 8, 4, 2, 1 と、公比 1/2 の等比数列になります。初項16、公比1/2、項数5のこの数列の和を、等比数列の和の公式で求めます。

S = 16(1 − (1/2)⁵) / (1 − 1/2) = 16 × (31/32) / (1/2) = 31試合

W杯では3位決定戦が1試合加わるので、決勝トーナメントは合計32試合です。

もっとも、勝ちぬき戦の試合数はもっと簡潔に導けます。1試合ごとにちょうど1チームが敗退するため、優勝チーム以外の (32 − 1) チームが負ける必要があり、試合数は 31。この「全単射的な対応(試合↔敗退チーム)」で数える見方は、組合せ論の基本的な発想です。一般に、mチームの勝ちぬき戦の試合数は必ず m − 1 になります。

4.合計の試合数

2つのステージを合計すると、72 + 32 = 104試合。前回大会(32チーム・64試合)より40試合増えており、出場枠拡大のインパクトが定量的に確認できます。

5.1つの国が戦う試合数(最少と最大)

最少は、グループステージ敗退の3試合。最大は優勝チームで、グループの3試合に決勝トーナメントの5試合(32 = 2⁵ を勝ちぬく)を加えた8試合です。決勝トーナメントの勝利数が5になるのは、log₂32 = 5、すなわち2を底とする対数として捉えることもできます。

6.確率で考える ― 優勝確率と対数

決勝トーナメントで全チームが互角(各試合の勝率 1/2、各試合は独立)と仮定します。優勝には5連勝が必要なので、優勝確率は、

(1/2)⁵ = 1/32

32チームそれぞれが 1/32 で、総和が1になる(32 × 1/32 = 1)ことも整合します。一般に 2ⁿ チームのトーナメントで互角なら、優勝確率は (1/2)ⁿ = 1/2ⁿ。逆に「優勝確率を1/Nにするには何回勝てばよいか」を問えば、n = log₂N と、対数が自然に現れます。

7.期待値で考える ― 何試合勝てる?

さらに一歩進めて、互角と仮定したときに1チームが決勝トーナメントで勝てる試合数の期待値を求めてみましょう。少なくとも1勝する(1回戦突破)確率は 1/2、少なくとも2勝する確率は 1/4、3勝は 1/8 … と続きます。勝利数の期待値 E は、これら「各段を勝ち残る確率」をすべて足し合わせることで求められます。

E = 1/2 + 1/4 + 1/8 + 1/16 + 1/32 = 31/32 ≒ 0.97

つまり互角なら、決勝トーナメントに出ても平均で約1試合しか勝てない計算です(勝利数の期待値が「各段の勝ち残り確率の和」で表せるのは、期待値の便利な性質の一つです)。トーナメントの「勝ち上がりの厳しさ」が、期待値という一つの数字に凝縮されます。

8.文字で一般化する

決勝トーナメントが 2ⁿ チームなら、優勝までの勝利数は n、トーナメントの試合数は 2ⁿ − 1。グループステージが「1グループ4チーム総当たり×g組」なら試合数は 6g。大会全体では 6g + (2ⁿ − 1) + 1(3位決定戦)と、規模をパラメータでおいた式で表せます。2026年大会は g = 12、n = 5 で、6×12 + 31 + 1 = 104。具体的な大会が、一般式の一つの代入例として位置づけられます。

おわりに

組合せ、等比数列とその和、確率、期待値、対数、そして文字による一般化。W杯という一つの題材から、高校数学の主要分野がつながって立ち現れました。現実の事象を数式のモデルに落としこみ、仮定を明示して結論を導く。この一連の流れこそ、数学を「使う」ということの核心です。ニュースやスポーツを見るとき、その裏にある構造を式で捉えようとする姿勢が、数学を生きた道具に変えてくれます。